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大阪地方裁判所 昭和39年(ワ)4574号 判決

原告 岡田鹿太郎

被告 浪速運輸梱包株式会社

主文

被告は原告に対し金三〇万円及びこれに対する昭和三九年九月九日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

原告は主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「被告は昭和三九年八月六日、訴外木村誠に宛て額面三〇万円、支払期日同年九月六日、支払地振出地とも大阪市、支払場所株式会社住友銀行天六支店なる約束手形一通を振出交付し、その後右手形は右訴外人から訴外浅田成一、原告へと順次裏書譲渡せられ、現にその所持人であるが、同月八日支払場所に該手形を呈示してその支払を求めたが、拒絶せられた。よつて、被告に対し右手形金及びこれに対する呈示の翌日たる昭和三九年九月九日以降完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払を求める」と述べた。立証〈省略〉

被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、

「原告主張事実はそのうち被告が支払を拒絶したことは認めるが、その余は争う。被告は訴外大阪トーヨー自動車株式会社千秋邦彦に支払うべき代金の支払方法として、昭和三九年七月一〇日被告会社本店において振出日及び受取人欄白地の原告主張の要件を記載した約束手形一通を作成し、被告会社代表者曾根義雄の机上に保管していたところ、訴外木村誠がこれを窃取したものである。凡そ手形の振出行為は、手形の作成と交付の二行為が必要であるところ、右手形には交付行為が欠除しているから、未だ振出行為は成立していない。従つて、被告には振出人としての責はない」と述べ、甲第一号証はその表面中振出日、受取人欄は否認するが、その余は認める。裏書は不知と述べた。

理由

よつてまず、被告の本件手形の振出行為の成否について考えるのに、手形の振出はもとより当該手形の作成と交付の二段の行為よりなるものと解するのを相当とするが、手形の作成によつて振出人の義務、即ち振出人に対する権利が発生しそれと共にその権利が証券に表章され、このようにして成立した権利が、これを表章する証券の交付によつて、証券とともに受取人に移転するものと解すべく、それは当事者間の契約によるものと考えられるから、署名者による証券の交付がなければ権利は移転しないものというべく、従つて、かかる手形を盗んだ者や預つたにすぎない者はもとより無権利者であり、その者がまだ手形を所持していれば、これに対しその返還を求めうることは勿論であるが、無権利者からこれを取得した場合といえども、該手形に裏書の連続があり、且つ悪意、又は重大な過失なくしてこれを取得した第三者は手形上の権利を取得するものというべきところ(手形法第七七条第一項第一号、第一六条第二項)、本件手形が完成手形としてなされたか、白地手形としてなされたかはとにかく、被告主張の如く被告が白地手形として振出すために、その主張の手形に自らその振出人欄に署名押印をなした以上、被告には白地手形の振出人としての義務が発生したものというべきであり、たとえ、右手形が被告主張の如く訴外木村誠により窃取されたものであるとしても、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一号証によると、右手形には裏書の連続があり、原告は裏書の連続ある手形の所持人であることが認められ、原告が悪意、又は重大な過失によりこれを取得したことについては被告において何等主張立証しないから、原告は右手形上の権利を行使しうるものというべきである。そして、右甲第一号証によると、右手形が白地手形であるとしても、その後適法に白地が補充せられ、且つ右手形は原告主張の如く順次裏書譲渡せられ、原告が現にその所持人であり、原告が昭和三九年九月八日支払場所に呈示して支払を求めたが拒絶せられた(支払拒絶の事実は当事者間に争がない)ことが認められる。

そうすると、被告は原告に対し右手形金三〇万円及びこれに対する呈示の翌日たる同月九日以降完済に至るまで商法所定年六分の割合による遅延損害金を支払う義務があるものというべきで、原告の請求はすべて理由があるものといわねばならない。

よつて、原告の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大野千里)

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